• タイトル:『天地明察』
  • 原作:冲方丁
  • 監督:滝田洋二郎
  • 発給:角川映画・松竹
  • 出版年:2012

読書メモ、というより、映画メモだが、この正月にテレビで放送していたので、せっかくだから見てみた。というお話である。

そんな私の個人的な理由はともかくとして、『天地明察』は、2009年に冲方丁によって書かれた小説であり、翌2010年に本屋大賞をとったのは、まだ記憶に新しいところだ。

江戸時代の天文学者である渋川春海を題材にした物語であり、江戸時代の改暦について、語られている。

1600年代半ばごろ、日本では862年に唐から伝えられた宣明歴を用いてたために、暦と実際の日付に大幅な誤差が生じていた。どういうことかというと、暦というのは、当時の日本や中国では、天から帝に与えられた神聖なものであり、帝の権威の象徴だった。簡単に言うと、帝の下にぶら下がっていた貴族たちが好きにできた既得権益の塊だったのである。今のように天文学的に決めていなかったため、例えば冬至の日よりも日中の時間が短い日があったり、日食の日に日食が行われなかったりと、暦が外れまくって、けっこう不安がる人々もいたそうな。

天体好きで、計算フェチの碁石打ちである主人公の安井算哲(後の渋川春海)は、そのズレに疑問を抱き、保科正之や徳川光圀(水戸黄門)の支援を受けながら、正しい暦を作ろうと、計算の海に挑んでいく! と言った物語である。

七転八倒の中で、さまざまな苦難とひたすら天体観測するといった地道な努力を繰り返した結果、貞享暦という日本独自の暦が初めて作られたのである。

原作は読んでいないので、なんとも言えないが、岡田准一の演じる安井算哲は、計算をし始めると、それ以外の諸々が手につかなくなるど変態で、その妻となる塾の娘えん(宮崎あおい)がそれのどこに惚れたのかさっぱりわからないまま、物語は進行していく。

安井算哲は、北極出地隊の一員として、日本各地で天体観測に励むことになるのだが、その先輩にあたる建部伝内(笹野高史)と伊藤重孝(岸部一徳)がこれまた面白い歩き方をしている。思わず吹いてしまった。

片足ずつを大きく振り上げて、イッチニ、イッチニっといった感じで、どうやら歩測をしているらしい。歩測とは何かというと、一定の歩長で歩くことによって、その歩数でどれくらいの距離を歩いたか推定する手法だ。地理屋的に言うと、まさしくニンマリしてしまうシーンなのだが、一直線に歩いているならばまだしも、曲がりくねって歩いて、当たるわけがなかろうと思わず突っ込みを入れたくなってしまうものだった。

それ以外にも、でっかい天測機械が出てきたり、木製駆動式の天文台が出てきたり(笑)、世界図の屏風が出てきたり、球に紙製の地図を貼り付けて、地球儀を作っていたりと、地理好きにとってはたまらないシーンが目白押しだった。

最終的に、暦が当たるか勝負したり、水戸黄門がしゃしゃり出てきたりと、なかなか変な強調しすぎだったが、個人的には非常に楽しめた。

渋川春海などというマニアックな人物について、改暦なんてマニアックなイベントを題材にして、よくもここまで面白く、しかも売れたなと感心してしまったくらいだ。しかし、日本の歴史を理解する上では重大イベントなので、知っていて損はないだろう。そして、そんな学術的な意義は置いておいて、普通に面白かったというのが感想として言えるだろう。

 

 

ところで、

渋川春海を著者が知ったのは、実はもっと随分と前のことである。

渋川春海は天文学者だが、それはつまり地理学者だった。

渋川春海については、『知りたいサイエンス 江戸の天文学者 星空を翔ける』で読んだのが初めてだったか。非常に地理学者だなと感じたのをよく覚えている。

今日、天文学者といったら、夜空に瞬く星々を観察し、それらを知るために様々な視点から追求をしている人々というイメージだが、渋川春海の時代の天文学者はその目的を少し違うところにも持っていた。

かつての天文学は、夜空の星々を知るためというだけでなく、地球そのものを知るための学問だった。天地明察の中にも登場した北極出地はその最たる例である。北極星の高さは、同じに見えるようで、実は場所によって違う。それは、緯度によって違うのだ。つまり、北極星の高さを測るということは、その場所の緯度を測るということだ。

渋川春海が行っていた改暦も、もちろん、暦を改めるということが主眼に置かれていただろうが、見方を変えれば、地球の周りを太陽が一周する周期(自転周期)と太陽が再び同じ位置に来るまでの周期(公転周期)を探るためのものだった。そして、北京と京都の経度の差から誤差が生まれることに気づいたとされているが、それはまさしく、地球の形を知った上で、地球上での位置関係を知るという作業だった。つまり、地球を知ること、すなわち地理である。

そうすると、渋川春海はまさしく地理学者なのだ。その証拠に、渋川春海は、日本最初の地球儀を作っている。

そのほか、天文学と地理学については、多々あるが、脱線しすぎたので、またの機会に譲ることとする。

 

ちなみに、渋川春海は、現在旬の人である。

今、国立科学博物館では、常設展で渋川春海展を行っている(先日、見逃したのでまだ見ていないのだが)。

ご興味がある方は、ぜひ国立科学博物館に足を運んでみて、渋川春海のマニアックな業績に感嘆の声をあげてみてはいかがだろうか。