• 書名:地理情報学入門
  • 著者:野上道男・岡部篤行・貞広幸雄・隈元 崇・西川 治
  • 出版社:東京大学出版会
  • 出版年:2001年

2001年と出版されてから随分と経っているが、

私の知る限り、この本が日本国内のGISに関する本の中で最もしっかりと説明されている本である。

GISとは、地理情報を系統的に「取得・構築」し、「管理」し、「分析」し、「総合」して、「表現・伝達」するものである。

そのシステムをGeographical Information System(地理情報システム)と呼び、その学問をGeogphical Information Science(地理情報学)と呼ぶのである。

本書には、GISができた背景、他の科学との関連、座標系やデータ構造といった基礎知識に加え、GISを用いた分析方法、その応用事例まで、俯瞰的な視点で幅広くGISに関する情報が詰め込まれている。

特に注目したいのが、GISを用いた場合、ツールを使って簡単に行えるような分析手法について、式や絵を交えながらしっかりと説明しているところだ。

私はGISを扱う大学や会社を渡り歩いてきているわけだが、先輩、同級生、同僚、後輩と見渡してみて、その原理や理論を考えないで、結果だけを見ている人がかなりの数いる。

それそのものがソフトの信頼性であり、すでに実証されたものについて、いちいち考えていること自体が無駄であると考える人もいるが、それには同意できない。

無限に近い数のケースについて、実証することは困難であり、必ず想定外のケースは存在している。それを限りなくゼロにしていく努力をした結果、表舞台に出ており、そのうえで数々の利用者が実証をしていると私も思っているが、ゼロではない。※ちなみに、数々の利用者が確認をしているかどうかはともかくの話である。

また、分析結果は、現実世界で起こっている現象を反映しており、それが実際にはどういう現象なのかを判断しようとした場合、必ず原理理論が必要になってくる。なぜならば、その分析は、現実世界で起こりうるすべての現象を加味したものではなく、必要な部分のみを抜き出したモデルであるからである。

長くなったが、本書では、オーバーレイ(重ね合わせ)、空間検索、ボロノイ分割、Join統計量、モランのI統計量などGISでよく使われる分析について、しっかりと説明されている。

最後には研究事例として、斜面崩壊地の抽出、植生の季節変化、地震危険度マップ、商圏分析、犯罪分布、保育施設の立地分析など実例を交えて紹介が行われている。

これらの事例は、その後現在に至るまでに、実際に商売になるレベルで発展している内容であり、今後もGISを活用していける最たるものだ。

それがどのように行われているのかを知ることができる。

本書が刊行されてからすでに15年ほど経過している。

その間に、GISは、それに付随する諸科学、コンピュータなどの発達と向上も含めて、飛躍ともいえる発展をしてきた。しかし、そのベースとなるべき知の体系がこの本には詰め込まれている。

いまだにGISを始める人間にとって、最初に読むべき本なのである。