- 書名:防災教育の不思議な力 子ども・学校・地域を変える
- 著者:諏訪清二
- 出版社:岩波書店
- 出版年:2015年
全国唯一の防災科を持つ兵庫県立舞子高校環境防災科の初代科長を努めた諏訪氏の著書である。
防災は防災として、教育にならねば伝わらないと思っていたので、そういった意味で、非常に興味があった本だ。
防災の本というものは、さまざま読んできたが、この本は、特に想いが強く伝わってくる本であった。
想いという言葉は、今、複数の意味にかけて書いているわけだが、一番の想いというものは、著者の想いだろう。
すなわち、災害多発国日本にあって、より多くの人々が防災能力を身につけ、助かっていかなければならない。いや、むしろ、防災能力を身につけることは、必然の義務である。
といったニュアンスの論調で、熱い熱い想いが語られている。
ここは、少し脱線だったが、この本は、防災の本として考えて見ると、
災害のメカニズムや事例を語った本ではなく、
被災した人々がどういった想いを持って生きてきたのか、そして、被災していない人々(本書の中では未災地の人々)はどういった想いを持って、今後、災害に備えなければならないのか、
といったことが書かれている。
傷ついた心にどうやって寄り添っていくのか。
それが、この本の最大のテーマとして扱われているように感じた。
そういった意味では、非常に希有で重要な本であると思えた。
特に専門家としての私も含めて、周囲の人間は、被災地支援に行ったことある人々も含めて、メカニズムについては、いくらでも解説できるが、この本に書かれている内容までしっかりと被災者の方々について考えることはできていないと思う。
特に、専門家・研究者は、どちらかというと未来志向で、過去にあったことは、未来を作るための要素であると考えている人が多いので、兎角置き去りにされやすい部分であると思う。
※あくまで研究者としての立ち位置で考えた場合で、それとは別の個人としての考え方は別
そして、もう一つ、防災教育を必修化すべきと主張し、防災拠点となるべき学校の立ち位置を力説し、防災教育を尻込みする現場の教員たちに対して、痛烈な叱咤を与えるという、現場を知った教員だからこそ言える言葉が数多く見受けられた。
私は、現場の教員ではないのだが、ちょっと耳が痛い反面、著者が英語の先生だから言えることでもあるのかなとも思った。
心の問題に重きを置きすぎており、もちろん、道徳の授業のような防災教育を行うのであれば、教科書などもなく、体験学習などによって、いくらでも授業を展開できるだろうが、理学の立場から言うと、やはり、メカニズムの理解やその応用を考えると、ある程度の指針がたった、教科書を扱った授業も重要であると思われる。
教科書を用いた授業の重要な点は、予習復習をしっかりとできることであり、そういった基礎概念が定着していない状態で、命の大切さや心の問題を推し進めていくのは、命の重要さに盲目に成可能性があるのではないかなと思った。
※本書では、命の大切さだけをやれとは書いていない。おそらく、著者がメインで扱ってきたのがそちらに寄っているので、力強く多く書かれているだけなのだが、総合的にものを捉えられる人が読まないと、そっちばっかりが強調されているように感じてしまう。
防災教育は必修化されていないが、次期学習指導要領では、地理が必修となり、その地理では、防災、GIS、ESDがメインの柱となる。
そういった意味では、地理の防災が必修化するわけだ。
それでも、本書で指摘されているとおり(この本では、地理の防災ではなく、防災教育として書かれているが)、過去の防災教育と称したメカニズム一辺倒で、現実とのリンクができていない授業ではなく、実際に生きていくために必要な授業を行っていくべきだろう。
どうすれば、良いのか。
絶対的な答えはないが、本書を読めば、かなり大きなヒントを得ることができると思われる。
特に、地理を教えなければならない、歴史の先生なんかは、読んでおくと、かなり良い授業を方針立てられるのではないだろうか。
と、熱く語ってしまったが、私自身も非常に関心がある分野である上に、本書には、読み手を熱くさせる何かが盛り込まれている。
そういった意味でも、非常に良い本であったのではないだろうか。
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